5月30日(木)。いよいよ「萬劇場 夏の短編集」へ向けた稽古がスタートする日です。稽古では出演者全員が揃っての顔合わせ、脚本の配布、配役の決定が行われました。
午前中の制作部でも、11月の第22回公演用のグッズ作りと併せて、夏の短編集で上演する「コイノオキテ」の衣装や小道具の案を考え始めました。衣装も小道具も早めに準備しておかないと、稽古の質も上がりませんし、準備したものがそのまま舞台上で使えるか(形状やイメージ、機能面のギャップ)という課題を修正する時間を確保できません。極力早く案を演出に提出して、現物を揃え、試着・試用しなければいけないのです。特に今回参加する「夏の短編集」は30分間という短さだけではなく、3団体の対バン形式で舞台を共有する仕様のため、衣装や小道具以外で世界観を表現することが難しくなっています。だからこそ、早めの準備を行っています。
そしていよいよ迎えた稽古の時間。社会人として参加する団員の到着を待つ間は、「コイノオキテ」を早く体感したい気持ちを封印し、別のショートシナリオの読み合わせを行いました。数年振りにてあとるみのりに参加する役者もいたので、全体の雰囲気や、他の役者の特徴を思い出してもらうための時間でもありました。そんな配慮も杞憂に終わるぐらい、全体が伸び伸びと、自分の持ち味を出しつつ、相手がこう来るであろうという予測を立てた演技を見せてくれていました。扱ったシナリオは2種類。その両方で充分に楽しめる演技をそれぞれが見せてくれていました。

全員が揃った頃合いで、ついに「コイノオキテ」完成版の脚本配布が行われ、物語の概要だけではなく、参加する萬劇場のイベント全体の概要の説明も行われました。昨年も参加した「夏の短編集」と少し違っている点、特に「地元枠」という特別扱いではない立場からの参加であることと、同時開催で提供される和文化体験のひとつ「茶道」を団員の一人が担うことについての説明が手厚くなされていました。自分たちがなぜこのイベントに参加するのか、何を観客や運営側に伝えるべきなのかを、総監督から具体的に説明されていました。共通の目的があってこそ、全員が心と行動を重ね合わせ、力を合わせてゴールを目指して歩み続けることができます。まずはそこを徹底して理解しあったという印象です。

そんなガイダンスがあった後は、配布された脚本の読み合わせを行いました。試作品を読んだ事のある団員以外には、まさに初めて触れる物語。噂通り、これまで我々が表現したことのないようなジャンルを交えつつ、最終的にはこれぞてあとるみのり的な収束を迎える展開に「面白い」「安心感があった」という率直な声が聞かれました。それでも、特に初見の役者には「まさかここでこんなセリフが!」と、ついつい集中を遮断されるようなシーンもあったようです。具体的に紹介できないのがもどかしいのですが、とにかく総意として「面白かった」ということです。
読み合わせを経てすべての配役も決定しました。どの役も「この人が一番しっくりくるね」と納得の配役でした。これでそれぞれが準備して来る内容や求められている表現がはっきりしました。中には、これまであまり取り組んだことのない表現を求められる役者もいました。次の稽古までにどこまで煮詰めてこられるか、新しいチャレンジに取り組んでこられるか、出演する役者にとっての闘いが始まります。

稽古の後は、8月の「萬劇場 夏の短編集VOL.8」に臨む劇団員がすべてそろっての懇親会を行いました。普段は裏方専門として衣装やグッズ作りに活躍している団員も駆けつけ、役者と交流する機会になりました。夏の短編集に出演するのは7名の役者になっていますが、舞台作りには全員が何らかの形で関わります。てあとるみのり全員の力が必要なのです。そんな思いを共有するために、とても貴重な時間となりました。私たちだからこそ表現できるものを具現化し、萬劇場に足を運んでくださったお客様の心に、確かな足跡を刻み込むため、ここから約2カ月間のチャレンジが始まります!