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2週間後には劇場で照明や音響と役者たちのきっかけ合わせを行っているはずの2月9日(木)。午前中の制作部から白熱した作業が行われました。グッズはある程度順調に進行しているので、製造作業を継続していますが、衣装と小道具の製造と調整は大詰めです。特に衣装では加工が必要なもの、新しく作らなければいけないものなど、まだまだすべてが仕上がっていませんので、担当者は大忙しです。縫い付け、アイロン、大きさの調整など、様々な工程で作業が行われ、午後の稽古を経て不具合を改善していくことになりました。

午後の稽古は、先週全員が浮足立ってしまった通し稽古の反省点がどれだけ生かされているかを確認するため、要所となるシーンのテコ入れを行いました。しかし、初っ端のシーンから、先週指摘されていたセリフを形だけ繰り返す、演技とは言えないレベルの表現が続いてしまい、演出が稽古を中断。何故先週伝えたことが理解され実践されていないのかの厳しい振り返りがありました。演出からは具体的に「ここでなぜこの距離なのか?」「このシーンが始まる前の人物の心理状態は?」「どんな生き様を描いてきたのか?」「この組織はどんな存在なのか?」「どれだけすごいものを扱っていると思うか?」など、想像力を細部まで張り巡らせて脚本を読まなければ理解できない問いかけが続きました。脚本に描かれているのはあくまでもほんの数十分間の人間ドラマ。その人物の人生は遥かに膨大です。そこを補完せずにその人物を演じることはできないわけですから、そのためにセリフの文字面ではなく、脚本の深い部分まで想像力を持って切り込んでいかなければいけないのです。そんな構築がないものは演技でもないですし、当然お客様に見せる作品にはならないのです。言ってしまえばセリフさえ覚えれば誰にでもできてしまう無価値なものです。そんなものを創るために日々時間と情熱を注いでいるわけではありません。もっと世界を描き出し、その中で生きなければいけません。

振り返りを経て役者からは「1週間無駄にしてしまった」「読みが足りなかった」との自省の弁が上がっていました。再開された稽古の中で、すぐにリクエストに応えられるわけではありませんでしたが、少しずつ必死さと神経の張り巡らせレベルの向上が垣間見られました。演じた本人たちも「やり終えた後の高揚感がある」「こっちの方がよかった」と、手応えを実感していました。稽古までに必要な準備と、稽古に臨む際の適切な気の張り方について、何となく体感できたようです。ただ、それはほんのつま先分ほどの第一歩です。この感覚で満足して歩みを止めることなく、さらに深みへと踏み込んでいかなければいけません。各自がハイレベルで並列な努力を積み重ねなければ十数名参加する舞台は成立しません。残り時間あとわずかの中で、どこまで深められるか?決して底など無い世界で、さらなる深みを目指します。

演技の手応えを得つつ進んだ稽古の後に、2回目にして本番前最後の通し稽古を実施しました。セリフの正確性には大いに不安が残りましたが、感情の表出、物語に流れる空気の意識は先週より高まりがありました。1週間でこれだけの成長があったわけですから、残りの2週間、各自が今まで以上の底上げを達成できれば、より作品のレベルが上がります。伝えたいことがお客様の心に伝わるように、より精度を高めつつ、内容の奥深さも追い求めていかなければいけません。それなりに形を整えたとしても、一か所でも不整合な部分があれば、お客様の心は一瞬でその場から離れてしまいます。その危機感と緊張感から何となく逃げるのではなく、真っ向から挑んで、それを凌駕するだけの準備を積み重ねていくことこそ、我々に最も不足していると同時に、お客様から最も期待されている部分ではないでしょうか。
