第8回公演「Mission」フォトギャラリーシリーズ第3弾。今回は仕込み風景をお届けしましょう。普段は福祉の事業所として全く異なる用途で使用されている空間が、小劇場仕様に生まれ変わっていく様です。似たような環境での公演を考えている方のご参考になれば幸いです。なお、忙しい工程が多々あったため、少々飛び飛びの画像になっている点はご了承ください。

仕込み前の土日に先乗りして、可能なエリアの壁紙貼りを行いました。

今回の舞台はジャングルの中の発掘調査研究室。
ということで、ウッド調の壁紙40mを購入しました。

このままだと綺麗な壁になってしまうので、この後、汚しを入れます。

まず墨で汚しを入れ(写真は墨の汚しまでです)、
舞台が発掘現場の近くということで、茶色2色のスプレーで仕上げました。

この日は現地人の酒壺も製造しました。
基本設計と着色はSugi。結合部の仕上げは団員F。

こちらは仕込み当日。9月12日(水)です。
まずは何カ所かある窓をふさいで暗室にします。

玄関のドアのガラスもふさぎます。
この時、表に広告が見えるように細工をしておきます。

この遮光ボードをドアの裏側から設置すると…。

何とも言えぬ存在感。通称「岩戸」。

こちらは小道具の仕上げに必要なツール作り。
文字を切り抜いた台紙を作っています。
これが装置の段ボールにプリントされていた文字になります。

そしてパネル作りのための角材も購入。
壁紙と角材等、装置には約30,000円かかっています。

実はこうして装置を作りこむのは初の試みでした。

慣れない木工作業でしたが、みんなで協力と工夫をして進めました。

特に苦労したのが「直角」を作ること。
パネルをまっすぐ支えるために必要なパーツなので何度か作り直しました。

パネルと直角の固定方法を協議。
効率よくかつ安全性・安定性を確保するにはどうすべきか?

汚し作業。これも墨で入れています。

パネルは張りぼてなので、固定する前に汚さないといけません。
色合いをほかの壁と揃えるのがなかなか難しかったです。
(仕上げは固定後にスプレーで行っています)

そうこうしているうちにパネルが立ち並びました。
天井までほとんどぴったりの高さ。240cmぐらいあります。

窓の外に茂る草木の装飾を大勢で行いました。
照明を舞台仕様にしているのは、どの程度茂らせればそれらしく見えるかを確かめるためです。

パネルへの壁紙貼り。まずは上部をガンタッカーで固定。
壁紙の自重による伸びを見込んで、下部の固定は翌朝行いました。

それらしくなってくると、結合部分の壁紙処理が課題に。

100円ショップで買いそろえたすだれを天窓部に設置。

壁の下部、熱帯っぽさを出すために板ではなくここにもすだれ。

細かい直しや汚しを加え、小道具系装置も並べて仕上げです。
今までのてあとるみのりでは、舞台装置と言っても壁に紙を貼る、既製のパーテーションでエリアを仕切る、簡易ステージで段差を付ける程度の設営しかしていませんでした。通常の劇場とは異なる、すぐそこに壁や天井が実在する空間だからこそできる手法を用いて雰囲気を演出してきました。しかし、「ここだからできる」ということは「外では通用しない」程度の力しか持っていないということでもあり、そこに甘んじているままでは成長しないといえます。これから外部での本格的な公演をしたいという劇団の意思、またはそれを求めるお客様の声がある現状を踏まえれば、それにふさわしい力を付けていく、そのステップアップが必要でした。そこで、脚本段階から舞台装置を作らなければ場面を再現できないような指定を施しました(今までは既存の空間的制約を逆手に取った場面設定をしていたが、その逆を試みた)。そのひとつが窓の存在です。既存の壁には窓はなく、仮にあったとしても外は密林でありません。何とかして窓を作って舞台の中に存在させなければいけないわけです。当初は雨が降ってくる場面で実際に窓の外に雨を降らせる仕掛けも考案され、その前提で装置は設計されました。技術的には可能な状態まで煮詰めていたのですが、時間と人員が足りず実現には至りませんでした。
何はともあれ、設計する側も初の試み、力を合わせて作る側も初の試み、それを指揮する側も初の試み。そんなチャレンジを力と知恵を合わせて乗り切ったことは大きな財産でした。初挑戦で小劇場演劇の標準的装置レベルに片手をかける程度までの成果を残せました。この空間の元の姿をご存知の方は大いに驚愕してくださいました。逆にこの空間をご存じないと思われる方には、どこが装置なの?安っぽい舞台だ!という誤解を生じさせた可能性が大きいことも大変名誉なことです。
演じるだけが演劇ではない。この皆で作り上げた舞台そのものが、今回の参加者全員が「一体感があった」「チームだった」と感じ、「すごく楽しかった!」「素敵な時間だった」と喜びを感じることができたひとつの大きな要因だったのではないでしょうか。
念のため説明しておきます。この装置は設計と陣頭指揮こそSugiが行いましたが、作り上げたのは役者を含めた参加者全員です。彼らは決して与えられた器の中で羽を伸ばしていたわけではありません。脚本と役者の関係と同じ。舞台は参加者全員の物なのです。これがてあとるみのりが目指している「創造する力」「成し遂げる体験」の具現化のひとつであり、そこに人間の可能性の一部を感じていただければ嬉しい限りです。
以上、今回は脚本家、演出家としてではなく、舞台監督、てあとるみのり総監督として語らせていただきましたSugiでした。